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青枯病菌の病原力のカギとなる鉄獲得吸収機能に着目
青枯病菌は、植物の根から入って導管をつまらせ水枯れ症状を引き起こします。高知県ではトマトやナスの病気として知られていますが、ヨーロッパでは主食であるジャガイモに、中南米や東南アジアではバナナにも加害し、甚大な被害をもたらします。
この青枯病菌の病原力に、生物にとって必須元素である鉄の取り込みに機能するシデロフォア(siderophore)と総称される低分子化合物が大きく関わっていることが最近になって明らかになってきました。
鉄には2価鉄(Fe2+)と3価鉄(Fe3+)があり、環境中にあるのは3価鉄ですが、これは生物がそのまま吸収することはできません。そこで、青枯病菌はシデロフォアを合成して環境中に分泌し、3価鉄をキレート化して細胞内に取り込みます。
青枯病菌のトマトの根における挙動を顕微鏡で観察した結果、青枯病菌の感染過程は複数の段階からなっていることがわかりました。まず、泳いできた青枯病菌が植物の根の表面に固着、表皮と皮相の細胞間隙で増殖し、皮層細胞の細胞壁を分解して皮層細胞の中に入ります。そして、皮相と内皮の細胞間隙を動き、内鞘、導管へと感染します。
皮層細胞の中は2価鉄が豊富に存在しています。この2価鉄の存在する環境と、3価鉄の存在する環境、青枯病菌がそこにどうやって応答して適切に遺伝子を発現させ感染を可能にするのかを解明することが、私の研究の目的です。


2つの転写制御因子に着目し病原力の機構を解明
そこで、私が着目したのが、転写制御因子Fur(Ferric uptake regulator)です。これは鉄の取り込みに関与する遺伝子の発現を制御する機能を持つタンパク質で、近縁の細菌種の系統解析から、青枯病菌はこのFurを2種類持っていることが明らかになりました。この2つのFurがどのようにして鉄に応答した遺伝子発現制御に関わっているのか、実際にトマトを使って実験に取り組みました。
まず、このFurをコードしている遺伝子のそれぞれの欠損株を作り、青枯病菌の鉄応答の活性を調べました。その結果、鉄が含まれない培地においてはFur2の欠損ミュータントでシデロフォアの活性が落ち、鉄を含む培地においてはFur1の欠損ミュータントでシデロフォアの活性が上がるという、全く反対の鉄応答を示すことが確認されました。次にその原因を調べるために、鉄を含む?含まないの各条件下でのワイルドタイプ(正常型)と2つの欠損ミュータントの遺伝子発現についてRNAシーケンスで解析を行いました。
これらの結果、青枯病菌は鉄が不足した環境と充足した環境でこの2つの転写制御因子Furを使い分けており、鉄が少ないとFur2が病原力に関わる遺伝子の発現を抑え、鉄が豊富になるとFur1が機能して病原力の遺伝子を誘導するとともに鉄獲得の遺伝子を抑制しているということが考察されました。
この研究が今後、青枯病菌の新たな防御技術の開発につながればと思っています。


ラボでは、トマトやタバコを青枯病菌に感染させて実験を行う
世界への貢献を目指し、国際学会で発表
この研究では、フランスのリヨンで行われた国際植物病理学会で発表をする機会を得ることができました。初めての経験でしたが、青枯病の研究で有名な海外の研究者が私の発表を聞きに来てくださり、光栄で純粋に嬉しかったですね。
また、世界の様々な研究に触れることができたのも大きな刺激でした。例えば今は青枯病の防御技術は殺菌剤に頼っているのが現状で、その問題点としては薬剤耐性菌の出現や環境負荷の問題があります。実際に近年、薬剤抵抗性を持った青枯病菌の菌株が出てきているのですが、それに関する研究があり、青枯病菌がどうやって抵抗性を打破しているのかというメカニズムを知ることができて、とても興味深かったです。
私の所属する研究室では、そういった課題の解決策として、青枯病菌の病原性に必要な機構を標的とした防御技術を念頭に、様々なアプローチで研究を行っています。それがとても面白く、まだまだ研究を続けたいと思い、春からは博士課程に進学する予定です。
自分の興味のあることにとことん挑戦できる188bet体育_188bet赌场-【平台官网】で、尊敬する先生のもと、世界に貢献できる研究に引き続き取り組んでいきたいと思っています。

国際植物病理学会での様子
? 教員より一言 ――曵地教授?都筑講師
私たちの研究室は、常に世界を見ていています。世界に貢献することを使命とし、全てを国際基準で考え、日々の研究に取り組んでいます。舘田くんは修士で取り組んだ研究論文が世界の植物病理学のトップジャーナルに掲載され、それをベースにして国際植物病理学会で発表を行いました。よくがんばり、素晴らしい成果を出してくれましたが、世界のトップと渡り合うことを念頭に置いている私たちの研究室においては、決して珍しいことではありません。彼の先輩も、また後輩も、同じように世界に挑んでいます。
ところで、私たちが取り組んでいるような病原菌の研究では、その危険性に応じて取扱いレベルが国ごとに定められています。青枯病菌はその多大なる脅威からヨーロッパではがんや狂犬病などと同じP3レベルであり、完全に隔離された状態で研究が行われます。しかし、日本ではレベルが異なるため、圃場試験が可能です。188bet体育_188bet赌场-【平台官网】ではその優位性を最大限に活かし、圃場や実験室で実際に菌に感染させた植物を見ながらモデル系を構築し、データを出していくことができます。現場で出てきたものをモデル系にしてミクロのレベルで証明し、また現場に落とす。だから、世界に負けないのです。
皆さんも、ここで私たちと一緒に世界を目指してみませんか?

